ロースクールと法曹の未来を創る会、Law未来の会

設立趣旨・活動方針

法曹養成制度改革提言(案)

  2014(平成26)年7月10日
ロースクールと法曹の未来を創る会

第1 法曹養成制度の現状と改革の視点

1 司法制度改革審議会意見書の趣旨と法曹養成制度の現状

(1)司法制度改革審議会意見書と法曹養成制度改革
 「21世紀の我が国社会において司法が果たすべき役割を明らかにし、国民がより利用しやすい司法制度の実現、国民の司法制度への関与、法曹の在り方とその機能の充実強化その他の司法制度の改革と基盤の整備に関し必要な基本的施策について調査審議する」(司法制度改革審議会設置法2条1項)ことを目的として、1999(平成11)年7月、内閣の下に司法制度改革審議会(以下「審議会」)が設置された。
 審議会は、今後、ますます複雑・多様化する我が国社会においては司法機能の充実が不可欠となるとの認識にもとづき、国民に身近で利用しやすく、その期待と信頼に応えうる司法制度を実現すべきとの視点をもとに、2001(平成13)年6月12日、同法2条2項に基づき、改革の諸方策についてまとめた司法制度改革審議会意見書(以下「審議会意見書」)を内閣に提出するとともに、国民へのメッセージとした。審議会意見書は、未来への可能性に満ちた我が国社会を支える基盤となる司法制度の姿を、明確に描き出したものであった。
 その司法制度改革を支える出発点とも言うべき法曹養成制度の部分は、法科大学院を中核として制度設計されていた。法科大学院は、法曹の質を維持しつつ、法曹人口拡大の要請に応えるための新しい法曹養成制度として導入されたものである。旧来の司法試験は、受験技術を優先した勉強が主流となり、法曹の質的低下が共通の認識となっていた。この状態を改革し、法曹養成に特化した教育を行うことで将来の法曹需要増大に対し量的質的に十分な法曹を確保するという目的のもとに、法科大学院制度は導入されたものである。
 内閣は、審議会意見書を受け、司法制度改革推進法を国会に上程し、同法成立後、内閣に、総理大臣を本部長とし、全閣僚を構成員とする司法制度改革推進本部を設置し、その中に設けられた法曹養成制度検討会で審議会意見書を具体化し、成論を得て、法科大学院の教育と司法試験等の連携等に関する法律(以下「連携法」)を上程し、同法は2002(平成14)年成立した。連携法は、審議会意見書の法曹養成制度に関する制度改革を忠実に明文化したものである。

(2)法曹養成制度の現状と本提言の趣旨
 以上のとおり、法科大学院は、法曹養成制度の中核という位置づけのもとに発足し、これまでの約10年の間、審議会意見書の理念のもとに、様々な努力が行われ、多様な法曹の養成という観点からも相当の成果をあげてきた。しかし、その反面、司法試験合格者が当初想定されていた3000人を大きく下回る2000人程度にとどまったことなどにより、司法試験の合格率が20%台に低迷した結果、法科大学院への入学希望者が大幅に減少する一方、予備試験合格者の増加により、予備試験が法曹資格取得の「早道」という意識すら生まれる状況が生じ、法科大学院制度が危機にさらされている。
 こうした状況に危機感を抱いた私たちは、2014(平成26)年5月、「ロースクールと法曹の未来を創る会(略称「Law未来の会」)」を設立した。審議会意見書から13年を経て、日本社会は、ますます複雑化し、国際化している。こうした日本社会において法曹が果たすべき役割はますます大きくなっており、多様な能力と資質をもつ多数の法曹を輩出することが喫緊の課題である。法曹養成の中核となる法科大学院を発展させることが、こうした課題に答える唯一の方法である。法科大学院を「見えやすく、分かりやすく、頼りがいのある司法」を実現するための大きな柱の一つと位置づけた審議会意見書と連携法の精神に立ち戻り、必要な改革をさらに進めていくことが、いま重要だと考える。
   この提言はその視点から行うものである。


第2 審議会意見書が提起した内容と連携法の定め

1 審議会意見書の関係箇所

  審議会意見書は、法曹養成のあり方について次のように指摘している。
(1)法曹人口の大幅な増加 
 法科大学院を含む新たな法曹養成制度の整備の状況等を見定めながら、2010(平成22)年ころには新司法試験の合格者数の年間3000人達成を目指すべきである。
(2)新たな法曹養成制度の整備
 法学教育、司法試験、司法修習を有機的に連携させた「プロセス」としての法曹 養成制度を目指すこととし、その中核として、法曹養成に特化した教育を行うプロフェッショナル・スクールである法科大学院を創設する。
(3)教育理念
 理論的教育と実務的教育を架橋するものとして、公平性、開放性、多様性を旨としつつ、
・ 「法の支配」の直接の担い手であり、「国民の社会生活上の医師」としての役割を期待される法曹に共通して必要とされる専門的資質・能力の習得と、かけがえのない人生を生きる人々の喜びや悲しみに対して深く共感しうる豊かな人間性の涵養、向上を図る。
・ 専門的な法知識を確実に習得させるとともに、それを批判的に検討し、また発展させていく創造的な思考力、あるいは事実に即して具体的な法的問題を解決していくため必要な法的分析能力や法的議論の能力等を育成する。
・ 先端的な法領域について基本的な理解を得させ、また、社会に生起する様々な問題に対して広い関心を持たせ、人間や社会の在り方に関する思索や実際的な見聞、体験を基礎として、法曹としての責任感や倫理観が涵養されるよう努めるとともに、実際に社会への貢献を行うための機会を提供しうるものとする。
(4)法科大学院の制度設計の基本的な考え方
・ 全国的な適正配置。
・  学部での法学教育との関係を明確にすること。
・  新しい社会のニーズに応える幅広くかつ高度の専門的教育で、実務との融合を図ること。
・ 少なくとも実務修習を別に実施することを前提としつつ、司法試験及び司法修習との有機的な連携を図ること
・ 教員につき実務法曹や実務経験者等の適切な参加を得るとともに、実社会との交流を図ること。
・ 他学部、他大学の出身者や社会人等の受入れにも十分配慮すること。 
・ 資力のない人や社会人、配置される地域以外の地域の居住者等にも教育を受ける機会を実質的に保障すること。
・ 評価システムを構築するなど、必要な制度的措置を講じること。

2 連携法2条が定める法曹養成の基本理念

 また、連携法2条は次のように定めている。
 「第二条 法曹の養成は、国の規制の撤廃又は緩和の一層の進展その他の内外の社会経済情勢の変化に伴い、より自由かつ公正な社会の形成を図る上で法及び司法の果たすべき役割がより重要なものとなり、多様かつ広範な国民の要請にこたえることができる高度の専門的な法律知識、幅広い教養、国際的な素養、豊かな人間性及び職業倫理を備えた多数の法曹が求められていることにかんがみ、国の機関、大学その他の法曹の養成に関係する機関の密接な連携の下に、次に掲げる事項を基本として行われるものとする。
一 法科大学院(学校教育法(昭和22年法律第26号)第65条第2項に規定する専門職大学院であって、法曹に必要な学識及び能力を培うことを目的とするものをいう。以下同じ。)において、法曹の養成のための中核的な教育機関として、各法科大学院の創意をもって、入学者の適性の適確な評価及び多様性の確保に配慮した公平な入学者選抜を行い、少人数による密度の高い授業により、将来の法曹としての実務に必要な学識及びその応用能力(弁論の能力を含む。次条第三項において同じ。)並びに法律に関する実務の基礎的素養を涵養するための理論的かつ実践的な教育を体系的に実施し、その上で厳格な成績評価及び修了の認定を行うこと。
二 司法試験において、前号の法科大学院における教育との有機的連携の下に、裁判官、検察官又は弁護士となろうとする者に必要な学識及びその応用能力を有するかどうかの判定を行うこと。
三 司法修習生の修習において、第一号の法科大学院における教育との有機的連携の下に、裁判官、検察官又は弁護士としての実務に必要な能力を修得させること。」

第3 法曹養成制度改革の提言

—審議会意見書と連携法に基づいた法曹養成制度の構築を—

 以下の提言では、審議会意見書と連携法における法科大学院という呼称を、ロースクールと名づける。制度の改革をくっきりと明示するためであり、内容は審議会意見書と連携法に忠実な「法科大学院」そのものである。

1 ロースクール制度の前提とその目的
(1)ロースクールの前提条件は、修了者の8割程度が司法試験に合格することである。
(2)ロースクールの目的は、多様な資質を有する法曹を輩出することである。
(3)司法試験では早期に毎年3000名程度の合格者を達成することをめざし、達成後は純粋な資格試験とし、合格者数の上限は設けない。

説明
 前記のとおり、審議会意見書は、2010(平成22)年ころに司法試験の合格者数を年間3000名程度とするという目標を定めたが、この目標は、一度も達成されなかった。その理由は定かではないが、司法試験を管理する法務省、そして最高裁、日弁連推薦委員も含む司法試験委員会が試験の点数の低い者を合格させることを躊躇したためと言われている。しかし、こうした姿勢にこそ、審議会意見書がめざした法曹養成制度改革への無理解と背反が色濃く滲み出ている。
 司法試験の「点数」を問題にする姿勢は、実際に行なわれている司法試験が、審議会意見書が目指したロースクール教育を踏まえた内容になっていないことを無視している。多様な人材の育成を目指すためにロースクールを創設したにもかかわらず、それまでの「一発試験」で法律知識を試していた当時と同じような狭い技術的な試験問題を課し、その点数の如何で法曹としての能力を判定しようということ自体が根本的な誤りであり、審議会意見書の方針を無視するものであった。司法試験は、従来のような技術的な法律問題を問うのではなく、ロースクール教育の結果を確認するために、基本的な法律知識と分析能力を試す簡明な試験にする必要がある。後述する司法試験に関する提案はこの視点からの提案である。
 「司法試験の合格者を年間3000人程度とする」という閣議決定までした目標を無視した政策が、多様な人材が法曹を目指すことを諦めさせ、法曹希望者数を押し下げた。加えて、新しい法曹像に対する社会的、経済的な理解が不十分であることもあって、新規登録弁護士の働く場が不足するという新たな矛盾も生じた。
 審議会意見書のめざす法化社会の形成には一定の時間を要する。社会の弁護士に対する意識や弁護士自身の職業意識も、なお「訴訟中心」から抜けきれていない。法廷外の社会のあらゆるところに、弁護士が必要とされていることが十分に認識されていない。また、目を日本以外に向ければ、そこには弁護士にとって未開拓の広大な活躍舞台があることもほとんど無視されたままである。上記のような「新たな矛盾」は、日本社会だけをみれば起るべくして起ったとも言えるが、世界は、我が国のこのような悠長な動きを尻目にはるかなスピードで前に進みつつある。
 現在の日本の弁護士数は3万5105名(2014年3月)であるが、その多くは、法律以外に専門的知識を有しない。自然科学や技術、医学に関する専門的な知識経験をもつ弁護士は極めて少ない。美術や芸術、体育などについての専門的知識、技能を有する弁護士などは皆無に近い。専門性も低く、得意分野として、「民事全般」などの表示が罷り通っている。弁護士数は、米国は100万人を超え、インドも100万人と言われる。中国は2012(平成24)年末に23万2384人だが、数年で30万人を超える予想で、都市部では1000人規模の国際巨大事務所が続出している。韓国は、現在1万5000人程度で人口比ではほぼ日本と同数であるが、2013(平成25)年から毎年2500人の司法試験合格者を出しており、これは、日本の6000人に相当する。韓国では、法学部や司法研修院は廃止され、依頼者の海外進出に伴って法律事務所も海外へ同行している。裁判官の採用も官僚制から「法曹一元」に変更した。ドイツでは現在、公務員試験はなく、弁護士有資格者に上級公務員資格を認めている。そのため、16万人以上いる弁護士のうち州や連邦政府の公務員を務める者が相当数に上る。米国は、以前から同様である。
 我が国の法律家の立ち遅れは、国際経済分野に影響を及ぼしている。英米の事務所に伍して国際的に展開する日本の法律事務所は、皆無である。最近注目される国際仲裁の分野の状況も目を覆うばかりである。シンガポールと香港は、仲裁地として広く利用され、金融、保険、海運などの関連産業と連携して相乗効果を上げているのに対比して、東京が仲裁地として利用されることはほとんどない。
 どこの国も経済戦争、知財戦争などで弁護士を戦士とし、司法が武器・装備であるとしてその充実に血眼なのである。
我が国の現在の上記矛盾を早急に克服し、世界水準に追いつくためには、審議会意見書のめざした路線を早急にやりきり、さらに前進する以外にない。

2 ロースクールの配置
 小規模校の合併などを適切に進めると同時に、全国的な適正配置に力点を置く。 
 本州においては、少なくとも隣接県には1校が配置され、北海道、四国、九州(沖縄県を含む)においては、各1〜3校が確実に配置されなければならない。

説明 
 法科大学院数は当初の74校から募集停止などを表明したところを除き54校(2014年6月26日現在)となったが、なお変動が予想される。
 しかし、何より重要なのはロースクールの適切な全国配置である。そのためには集中しすぎている東京圏から他の地域への移転や大規模校の定数削減などを進めるとともに、資力のない人や社会人に教育を受ける機会を保障するため、夜間ロースクールを全国に何校か配置する必要がある。

3 入学者選抜
 入学者選抜は、統一の適性試験のほか、英語試験、外国ロースクールでの成績、学部での成績、自己推薦書および面接試験などによる厳正なものとする。
法学未修者を標準とし、修業年限は3年とする。法学既修者を中心に飛び級としての2年での終了も例外として認める。

 

4 教育内容、教育方法および修了
(1)教育内容
 基本的な法理論、法実務を身につけさせるとともに、法学以外の幅広いバックグラウンドを有するロースクール生が、そうした知識、経験を自己の専門分野として生かせるような教育が必要であり、また、先端的な法領域を含む現代社会が必要とする法務についてのカリキュラムを数多く揃えるよう工夫しなければならない。
 カリキュラム充実の方法として、他のロースクールとの提携、他の大学院・大学との提携などの道を柔軟に認め、修得単位の共通化などを進めるべきである。
(2)教育方法とその視点
 少人数、双方向教育は当然の前提とし、(1)を達成するための視点は次のようなものであるべきである。
 法理論や法実務の教育や専門分野を開拓する教育は、国際的視野で行われるべきであるとともに、幅広い教養、豊かな人間性を涵養しなければならない。また、職業倫理の修得やカウンセリング、交渉などのスキル教育も必須である。特に、養成する弁護士像は、旧来の国内訴訟を担当するという役割像から脱皮し、全ての個人が自律的な存在として尊重され、日常生活の中で、法という透明なルールを基盤とし正義に等しくアクセスできる社会において社会生活上の医師としての役割を担うものでなければならない。
(3)修了
 法理論、法実務、専門分野開拓教育の修得度を厳格に判定した上で、修了は毎年2月末とする。

説明
 カリキュラムには、企業会計、心理学、哲学、社会学、文学、経済学などが多様に用意されなければならない。
 専門性の例としては、次のようなレベルが求められる。東日本大震災の中で福島第一原発事故が起こったが、これがアメリカでの事故であれば、国家と企業を防衛しようとする側にも、国家と企業の責任を追及する側にも、原子物理学や放射線医療の知識を十分にもった専門の弁護士がつく。我が国にそうした専門弁護士がいないことは周知の事実である。
 こうした専門弁護士の養成計画が作成される必要がある。どのロースクールにどのような先端的専門弁護士養成を担わせるかも含め、早急なる対策が必要である。
 修了者、法曹の活躍の場は、広く人々の日常生活のあらゆる場に拡がる。その中でも特に弁護士は、多様な社会生活の中で、人々が公正で自律的なコミュニケーションができる場を作り、その中で当事者が紛争を予防し、争いが起これば納得できる解決を得るために役立つ存在であることを目指すものである。法曹は、かけがえのない人生を生きる人々や喜びや悲しみに対して深く共感しうる人間性の涵養が求められ、ロースクール教育の根本は、この点におかれるべきである。

5 司法試験
(1)司法試験は、ロースクール修了後速やかに行われるものとし、合格発表は、修了後数ヶ月以内に行われるものとする。試験は、ロースクールの教育内容を問うものとする。
 ロースクール修了者の8割程度が1年目で合格することを目途とする。
(2)予備試験に替えての措置
 予備試験は廃止する。資力のない人や社会人については、厳正審査を経て、ロースクールの学費・生活費等を国費で奨学金として与え、また夜間のロースクールを充実させるなどの施策を講じる。

説明
 合格者は年間3000名程度とするが、この間に合格していない修了者がいることとの関係で、修了後1年目で合格する者の割合が8割程度となるよう、当面の合格者は年間3000名を相当上回ることもあり得る。
 なお、前述もしたが、司法試験は純粋な資格試験であるから、合格者の厳格な人数制限は、年間3000名達成後は、撤廃されるべきである。また、法曹資格は、司法試験合格により付与される。司法修習は、これを踏まえて、どのような方法が妥当か検討するべきである。
以上

 

 

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